2008-06-04

アピチャッポン作品「Worldy Desires」

タイ服で行こう!という訳で、「タイ式シネマ★パラダイス」は、タイ・ファッションで行くことにしました。
昨日は、チェンマイで買ったタイシルクの巻きスカートです。

特別上映作品「Worldy Desires」
アピチャッポン・ウィーラセタクン監督
2005年/40分
長谷川裕子(東京現代美術館 事業課長)トーク付き

映画を撮影するクルーを撮影した実験映画です。
ジャングルの中で逃避行する男女を演じる俳優たちと、それを取り囲んで撮影するクルーたち。
非日常的な役を演じる俳優たちをよそに、「照明の方が給料いい」などと、現実的な会話をひそひそと交わすクルーの対照的な様子。そして、それを暗い映画館で見つめる私たち観客。
私たちも、入れ子式の視線の一つとして描かれていることに気付きます。

実験的映画なので、ストーリーというものはなく、暗いジャングルで歌うポップ歌手のシーンが入ったりと不思議なシーンの連続です。
実験映画は意外と好きです。
ドキュメンタリーは、監督が事実に意味づけを加えますが、実験映画の解釈は観客に委ねられます。

長谷川裕子さんは、アピチャッポン監督を早い時期から評価し、日本に紹介した方です。アピチャッポンが映像作品も作っていたということもありますが、彼をアーティストとして評価しているところが彼女のキュレーターとしての能力なのでしょう。

長谷川さんの解説では、アピチャッポンの作品は、俳優や監督自身のパーソナルな記憶を深く追求していくという手法によって、多くの人に共有されるものを表現しようとしているのだそうです。
監督自身のトークも何度か聞いたことがありますが、俳優ではなくて素人を好んで使い、その人の現実の役割や記憶などを引き出し、それを作品に投影させて作っているという話も聞きました。
一見、意味のないことの貼りあわせのように見えることも、現実の人々の記憶がベースにあるからこそ、見る側が自分の体験と重ね合わせて共感できるのだと思います。
人々が語る記憶の中から、何を選択し、どのように表現するか、それがアピチャッポンの映像作家としての才能なのでしょう。
作品を見れば見るほど、引き込まれる作家です。

アピチャッポン監督の作品は、全部で5作品上映されます。
ラブストーリーやアクション映画もいいけど、深く余韻の残るアピチャッポン監督の作品もぜひご賞味あれ。